標高1914mの北上山地最高峰の山。ハヤチネウスユキソウ、ナンブトラノオなどの固有の高山植物の宝庫としても有名である。賢治は盛岡高等農林の研究生のとき、稗貫郡地質及土性調査のため入山しているほか、山頂や麓で詠んだ作品も残されている。
 童話「どんぐりと山猫」は早池峰山が舞台といわれているほか、早池峰山の麓・大迫にはモリブデン鉱山跡があり、また煙草の栽培が盛んに行われていたころから「風の又三郎」との関連も指摘されている。

花巻桜町 雨ニモマケズ詩碑近くから見た冬の早池峰山
小田越登山口から望む山頂

河原坊

 年譜によれば賢治は1925(大正14)年8月10日夜、河原坊に野宿し、翌日11日に早池峰山に登山、山頂で日の出を迎えたとある。この日付で「三七八 河原坊(山脚の黎明)」「三七五 山の晨明に関する童話風の構想」の詩作品がある。また、前年1924(大正13)年8月17日付の「一七九 〔来たいっぱいの星ぞらに〕」「一八一 早池峰山巓」があり、この時も野宿、登山したと思われる。
 佐藤隆房『宮沢賢治』に賢治が語ったこととして、「早池峰山の河原坊は言い伝えでは何でも何百年か以前に天台宗の大きな寺のあった跡で、修行僧も大勢集まっていて、随分盛んなものだったということです。そこでは今も朝の小暗い黎明時にひょっとするとしんしんと読経の声が聞こえてくると噂されております。」とあり、「河原坊(山脚の黎明)」は黎明前の暗闇で、二人のはだしの逞しい若い坊さんを見たという幻覚体験を記している。なお、ここ河原坊には「山の晨明に関する童話風の構想」の詩碑が建てられている。

河原坊から望む山頂
河原坊の賢治詩碑

早池峰神社

 大正13年8月13日付けの早池峰神社登山者名簿に賢治の名前があることが地元の人々によって発見されている。早池峰神社は大迫側の登山道入口にある岳集落にあり、早池峰神楽で全国的に名の知られている神社である。神楽は主に夏と冬の例大祭に奉納されており、賢治はその機会に訪れてはいないようで早池峰神楽を見たという記録や資料はない。

大正13年8月13日付け登山者名簿
早池峰神社
早池峰神社神楽殿 毎年8月1日例大祭前夜祭における奉納神楽