碑が建つ場所は宮沢賢治の童話作品「さいかち淵」「風の又三郎」ゆかりの豊沢川近くで、現在は碑に面して2車線の道路が走り、周りは住宅街として開発されてきたところである。
 このあたりはかつて松林が多く、近くの豊沢川は洪水で川筋が変わることもあり、大きなさいかちの木が繁った淵があったという。また、昭和16年の島耕二監督の日活映画「風の又三郎」の野外撮影地になった。
 「さいかち淵碑」は「石神開町記念碑」と合わせて、石神町有志により開町20周年の昭和47年に建立された。

碑文

 碑文は童話「さいかち淵」から引用したものだが本文と一部異同がみられる。該当箇所は本文では「蝉が雨のように鳴いている」とあり「降る」はない。新校本全集で確認すると、「蝉が雨の[降る→削除]やうに」とあって原稿段階で「降る」が消されている。碑文の選定にあたって、選者は直接原稿を参照したうえ、さらに削除箇所も活かしたのか…。

 ぼくらは、蝉が雨のように鳴いているいつもの松林を通って、それから、祭のときの瓦斯のような匂のむっとする、ねむの河原を急いで抜て、いつものさいかち淵に行った。今日なら、もうほんとうに立派な雲の峰が、東でむくむく盛りあがり、みみずくの頭の形をした鳥ヶ森も、ぎらぎら青く光って見えた。しゅっこが、あんまり急いで行くもんだから、小さな子どもらは、追いつくために、まるで半分馳けた。みんな急いで着物をぬいで、淵の岸に立つと、しゅっこが云った。

童話「さいかち淵」より
現在のさいかち淵付近、河川改修・築堤により川筋の様子は一変した