賢治には「台川」という花巻温泉釜渕の滝を舞台とした散文風の作品があるが、その台川は釜渕の滝のすぐ下流で瀬川に合流し、さらに下ってこの碑が建つ湯本小瀬川附近で鍋割川が合流する。瀬川と鍋割川は「川ふたつこゝに集ひ」て一つの川となりイギリス海岸付近で北上川に流入している。
瀬川は昭和54年の集中豪雨で堤防決壊など大きな被害にあい、大規模改修が進められていた。工事が完了した昭和58年に、花巻市では自然災害の記憶の継承と工事完成を記念し、賢治の作品の中から川にちなんだ詩を選び同年7月に碑を建立した。
碑文
碑文は、文語詩「〔二山の瓜を運びて〕」(「文語詩詩稿 一百篇」)の下書稿から一節を抜き出したもので、草野心平の揮毫による。この文語詩の現存稿は、下書稿(一)~(五)と定稿が残されており、その下書稿(五)の題は「川」となっている。ただし、碑文は下書稿(四)から引用したもの。
なお、この詩の情景は渡し舟の舟着き場が舞台なようで、川幅が小さい瀬川の岸では詩の内容とは一致しない。碑文選定に際しては作品ゆかりの地というより、あくまで川にちなんだものとして選ばれたようだ。
瓜摘みて
「〔二山の瓜を運びて〕」下書稿(四)第一形態 「文語詩稿 一百篇」所収
大祖父の
桃摘みて
舟を泛ぶる
七夕の
いろがみ購ふと
銭にぎる
へさきのうなゐ
川ふたつ
こゝに集ひて
はてしなく
萌ゆる水沫